★ミシュランタイヤテストの結果から読み解く、2016年の予想図
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moto mattersmのDavid Emmettさんによる、第二回目セパンテスト4日目のミシュランタイヤテストの結果から読み解く2016年の予想図です。ミシュランのフロントタイヤのグリップと、ブリヂストンのフロントタイヤのグリップの違いによって、マシン開発やライディングスタイルに与える影響の考察なんですが、非常に多くの物事が連鎖的に繋がっているのだなぁ。。と、改めてMotoGPの世界におけるメカニック、開発陣、ライダーに頭が下がります。
MotoGPのタイヤサプライヤーがブリヂストンからミシュランに変わるのは、マーケティング面でも、タイヤ開発部署にとっても、バイク自体のセットアップを考えても極めて繊細な話題だ。
ブリヂストンは今年の選手権のために大金を投じており、ミシュランは同じ事を来年に向けて行っている。どちらのブランドも自分たちのブランドの価値を落としたくないのは当然であるし、その評価をライダーのコメントやラップタイムによって評価されたくないのは当然であろう。
こういった思惑によって、第二回目のセパンテストのスケジュール4日目に行われたファクトリーライダーによるミシュランタイヤのテストでは、ブリヂストンからすべてのチームとライダーに対して、メディアへのコメント禁止の要請が出された。
転倒の背景にあったもの
今回のテストの一番の問題点は、タイヤテストに求める必要要件そのものだったと言えるだろう。ライダー達は極限のシチュエーションの中で、3日間の過酷なテストを終えたばかりであり、ブリヂストンの最新型タイヤで自分達のマシンのフィーリングを掴み、自信をつけていた最中だった。こうした状況の中、数名のライダー達が転倒し、彼らの恐ろしく高価なマシンに損傷を与えてしまった。ホルヘ・ロレンゾとアンドレア・イアンノーネは高速のターン3で転倒、ジャック・ミラーとアレイシ・エスパロガロはターン5で転倒。ロレンゾのマシンはほぼ完全にスクラップとなり、ドヴィヅィオーソはファクトリーライダーにつき、一台しか与えられていないGP15に損傷を与えてしまった。ただ、これはタイヤ開発の現場においてはある意味つきものと言える問題だ。幸いなことに、この転倒による怪我人は出なかった。
ミシュランの新型17インチタイヤ
ミシュランが持ち込んだのはフロントタイヤが4種類、リヤタイヤが3種類。そしてコンパウンドよりも、その構造やプロファイルに開発の重きが置かれたものだ。ミシュランのニコラス・グベールによると、コンパウンドに関する開発はさらに先ということだ。
今現在の段階においては、タイヤの基本的な形、強さ、構造に重きを置いた開発を進めているとのこと。全てのタイヤは17インチで、現在のブリヂストンタイヤの16.5インチよりも大きい。このサイズの変化は、GPタイヤの開発で得た知識をダイレクトにマーケットに還元する為というミシュランの理念に基いている。ただ、タイヤのインチサイズは異なるものの、タイヤの外周は現状のタイヤと全く同じだ。タイヤサイズの違いとしてはサイドウォールの高さということになる。
フロントタイヤのプロファイルに違いは見られたが、このタイヤはミシュランが昨年から開発をしているものとほぼ同じと言って良い。以前のフロントタイヤはもう少しタイヤの山のV型シェイプがキツイものだった。新しいタイヤはよりラウンド形状になったと言えよう。V型のタイヤはコーナリングで向きを変えやすいが、ラウンド型のほうがブレーキングでの安定性が高い。ミシュランによるとライダー達は新しいラウンド形状のタイヤのほうを気に入ったとのことだ。
今回の転倒のメカニズム
ミシュランがSpeedweekに語ったところによると、リヤタイヤのグリップレベルは合格ラインだったが、これがフロントタイヤと組み合わさって問題が発生したようだ。転倒した4人のライダーの転び方は、コーナリング立ち上がりでのスロットルの開け始めだった。つまり、リヤタイヤのグリップによってフロントをプッシュし始めるまさにその瞬間だ。早めのスロットルオンでリヤがフロントを押し出し、フロントのグリップがそれに対抗してコーナリングしていく。周回を重ねる中で、あるポイントでリヤのグリップがフロントのグリップに勝ってしまった。そしてフロントが外に押し出され転倒が発生する。転倒のメカニズムはこうだ。
単純にこの結果によってミシュランタイヤがブリヂストンよりも劣ると言えるのか?一概にそうとは言えないだろう。基本的にフロントがプッシュされるようになってくると、クルーチーフがセッティングの変更を指示し、重量配分やジオメトリー、ホイールベースなどの変更が行われる。ただ、今回のミシュランタイヤのテストではそれが出来なかった。なぜなら彼らが行っていたのは、バイクのセッティングを出すことではなくタイヤを評価することだからだ。構造やプロファイルが異なるタイヤを試す場合、バイクのセッティングは変更せずにタイヤを履き変えていくものだ。そうすることで初めてコンスタントなデータの取得が可能となる。トラックコンディションは温度によって変化するだろうが、バイクのセッティングを変えることによる影響に比べたら些細なものだ。
ミシュランがタイヤテストで得たかった結果は得られたが、その代償は大きかった。彼らは恥ずべき結果が起きないように願っていたが、全ての注目はクラッシュに行ってしまった。メディアはタイヤについてのコメントを集めて記事にすることは出来なかったが、ミシュランをきまり悪くさせる記事を書く自由は与えられていた。ただ転倒に関しては避けようが無いリスクだ。なぜなら未知のタイヤを履いた疲れきったライダー達が、限界でタイムを追い求めて走行しているわけで、彼らのバイクは完全に異なる性格を持ったタイヤに合わせて完璧にセットアップされ、さらにミシュランのタイヤの正確に合わせてバイクのセッティングを変更することさえ出来なかった状態なのだから。
今回の転倒の責任はミシュランにある?
今回の転倒に関してミシュランは責められるべきなのか?それは不公平というものだろう。ミシュランは2016年からタイヤを選手権に供給するために一刻も早くファクトリーライダー達によるテストが絶対に必要で、さらにテストには時間もコストもかかる。セパンでのテストというのはタイミングやチームが一同に会するという意味でも、他に選択肢のない選択だったといえる。
気になる各ライダーのラップタイム
今回のラップタイムは明らかになっていない。様々なソースが独自にラップタイムを計測していたようだが、その結果もまた様々だ。結果を総合すると、そのタイムはブリヂストンと比較しても遅くないというものだったようだ。マルク・マルケスとアンドレア・ドヴィヅィオーソは2:00.1付近、ヴァレンティーノ・ロッシとホルヘ・ロレンゾは2:01.0付近。ダニ・ペドロサは2:01.5、カル・クラッチローとポル・エスパロガロはダニから僅かに遅く、ブラッドリー・スミスは2:02付近だったようだ。マルケスとロッシはロングランを行い、その平均タイムは2:01付近だった。
このタイムから何らかの結論を導くのは難しい。これらのタイムはストップウォッチによって計測されたものであるし、わずか数周に渡って計測されたものに過ぎない。ただ、僅か数周であったとしてもミシュランタイヤはブリヂストンに匹敵するパフォーマンスを発揮していると言える。これは我々が求めていた結果だろう。
2016年から起こりそうなこと
今回のテストで明らかになったのは、時がどれだけ流れようとも、2つの異なるメーカーの開発哲学は異なり、そのコンセプトは不変であったということだ。ミシュランが選手権を去った時、そのリヤタイヤのとてつもないグリップは賞賛されていたが、残念ながらフロントタイヤはブリヂストンのような強烈なグリップを持っていなかった。この流れ、そして今回の結果によって2016年に起こりそうなことが予想出来る。
バイクのセットアップは変化し、バイクの重量バランスはフロントタイヤのグリップ不足を補うためにフロント側に寄るだろう。ライダーのライディングスタイルも変化し、今までのようにフロント側に突き出していた頭は、バランスを取るために少し後ろ側に位置するようなライディングスタイルとなるだろう。このスタイルの変化はマシンの開発にも影響を与え、メカニックはこうしたバランスの中でフロントとリヤのメカニカルグリップを引き出そうとするだろう。フレームやスイングアームは開発の中でサーキットとファクトリーとを行ったり来たりするようになり、サスペンションも最適な減衰性質の追求の為に開発が忙しくなるだろう。
別の言い方をすると、とてつもなく恐ろしい金額が開発にかかるということだ。タイヤメーカーが変わるということは、統一ソフトウェアを使用することに比べると実に大きな変化となる。
この変化の恩恵を受けて速くなるメーカーもいれば、遅くなるメーカーもいるだろう。そしてそこからまたメーカー間の競争が始まる。私の個人的な考えを述べるとすると、ホンダが遅くなることには賭けないほうがいい。彼らには金があり、最高の頭脳、世界一のライダーが揃っている。彼らは間違いなく打ち負かすべき相手として君臨するだろう。