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★MotoGP2015 第二回目セパンテスト マルケス対ロレンゾ 詳細分析

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さて、セパンの3日間に渡るテスト、その後のミシュランタイヤテストも終了しましたが、3日目のテスト終了時点でのDavid Emmett氏による詳細な解説記事をご紹介します。タイムの差がかなりあると思えたマルケス選手とロレンゾ選手ですが、こういう事情も鑑みて考えると、今年はどうなるかわからんですね。

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マルケスに付いていけたのはロレンゾのみ

最終日のタイムシートを見ると、今回のテストにおける結果について非常に単純な結論に行きつく。それはマルケスが圧倒的な速さを発揮し、それについていけたのはホルヘ・ロレンゾただ一人だったいうものだ。カル・クラッチローも良いタイムを出しているが、これは一発のタイムに過ぎない。DucatiのGP15は速いが、アンドレア・イアンノーネが操縦した場合に限る。ヴァレンティーノ・ロッシとダニ・ペドロサはチームメイトの後塵を拝している。ブラッドリー・スミスはチームメイトのポル・エスパロガロを抑え、スズキがこれに接近している。ただその差はまだ大きい。アプリリアに関しては望み無しと言ったところか。

 

 ただ、結果だけを見て一概にそれで全てを結論付けるのは少し違う。というのも、テストにおいてはそれぞれのライダーが、それぞれ全く異なるメニューを、異なる日、異なる時間でこなしているからだ。マルケスは一発のタイムもレースシミュレーションのタイムも恐ろしく速かったが、単純に他のライダーとのタイムの比較をするだけでは全体像はわかりにくい。

マルケスのシミュレーションタイムは驚異的

マルケスのレースシミュレーションは実に驚異的なものだった。19周の平均タイムが2:00.760であり、これは決勝レースの周回まであと1周という距離に相当する。16周は2:00台であり、2:01台だったのは僅か3周だ。彼のアウトラップがどの程度のタイムなのかはわからないが、こちらも恐ろしく速いということは間違いない。マルケスはレースシミュレーションをピットで15分過ごしたあとに実行した。彼のレースシミュレーションの合計タイムは昨年の彼の決勝タイムを圧倒的に上回っており、その合計タイムの差は、なんと25秒もある。これは本当に恐ろしいことだ。(※19周換算で)

 

このマルケスの結果に比べると、ロレンゾはシミュレーションで僅か11周を走行するにとどまり、2:01台だったのは6周に留まり、残りは2:02台だった。このタイムは昨年3位、マルケスから3.5秒遅れとなった彼自身の決勝タイムと変わらない。ただ、このタイムの違いについてはちゃんとした理由がある。

ロレンゾのレースシミュレーションのほうが実戦に近い

マルケスは彼のレースシミュレーションを、気温が約30度まで下がり、トラック温度も51度程度まで下がり初めた5時からスタートしたのに対し、ロレンゾは彼のレースシミュレーションを熱帯特有のタイフーンの最中の3時半から開始した。2時にブリヂストンが計測した際にトラック温度は60度、気温は35度で、3時半の時点でも、気温、トラック温度ともに下がっていない状態だった。セパンのレースはいつもタフなコンディションで行われるが、今回のレースシミュレーションに関しては、ロレンゾは人一倍タフな状況で行っていたということになる。

 

何故こんなことをしたのだろうか?それはマルケスを決勝で負かせるかどうかを判断するには、同じ時間帯にレースシミュレーションを行う必要があるからだ。ヤマハの弱点でもあるトラック温度が高いサーキットにおけるグリップ不足という問題を解決するには、この時間帯にレースシミュレーションを行ったというのは懸命な選択だ。

ロレンゾは、バイクの問題点を解決するには「その問題点をより正確に把握すること。10月の4時にスタートしたレースなのであれば、より近いコンディションの時にシミュレーションを行うことが重要。」とスペインのジャーナリストに語っている。その意味ではロレンゾのシミュレーションのほうが実際のレースの状況に近いと言える。

ホンダとヤマハの開発の進捗の違い

また、ロレンゾとマルケスにおいてはバイクの開発の度合いのおいても異なる状況にある。セパンテストの後、マルケスはバイクは今まで通り素晴らしいと語っている。彼はセパンにおいて使用するシャーシを決定した。これはホンダが新規に持ち込んだものではなく、第一回目のセパンテストで使用していたものだ。そしてセットアップやライディングスタイルの改良に着手している。一方ロレンゾはフルシームレスギアボックを含めて、バイクにはまだ改良の余地があると語っている。このギアボックスの改善の余地についてロレンゾは語ってくれなかったが、まだ何かしらやるべきことがあるようだ。

 

ホンダのほうがマシンのアドバンテージがあるのか?おそらくそうだろう。しかしタイムシートで見るほどの大きな差では無いだろう。ホンダは今直ぐにでもレースをスタート出来る状況であり、ヤマハはまだまだ改善の余地を残しているということだ。マルケスの才能も光り輝いているが、ロレンゾのきっちりと物事を積み上げてゆくスタイルもまた強力な武器だ。次のカタールのテストにおいて、こういった仕上がり具合などを含めて、より明らかになっていくだろう。ちなみにロサイルはヤマハが得意なサーキットだ。路面状況の悪いサーキットではホンダのバイクは少し苦戦するだろう。

 

ある特定のシチュエーションにおいてではあるが、気温が低い状況ではヤマハのほうがパフォーマンスが良い。気温が低くなりすぎると、ヤマハが絶対的に必要とするタイヤのエッジグリップが得られず、逆にホンダの立ち上がりの速さが強みになってくる。おそらくヤマハのバイクにとっての適温は、暑すぎず、寒すぎずということでホンダのバイクに比べて幅が狭いのだろう。特にエッジグリップが失われてしまうと、M1の強みのコーナリングスピードが犠牲になってくる。

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ヴァレンティーノ・ロッシが語った内容によると、ホンダは特にマルケスが操縦した場合、ヤマハに比べて大きなアドヴァンテージがあるようだ。ロッシはフルシームレスギアボックを気に入り、ユーズドタイヤを履いた状態でのテストを繰り返し行なっていた。ロッシによると皆の実際のポテンシャルを想像するのは難しいという。テスト、レースシミュレーションでも走り方は異なってくるし、サーキットによる差も存在するからだ。テストの場合、単純に何かを試してピットに戻るという繰り返しだが、レースウィークの場合は、限られた時間の中でより集中していかなければならないため、何かを試すとか実験する暇は無い。全てのセッションは、チームやライダーが試せる内容があるかぎり、プランにそって進行していく。

GP15は最初から速く、進化の余地が多分に残されている

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Ducatiのガレージではアンドレア・イアンノーネがGP15のパフォーマンスを遺憾なく発揮した。GP15がGP14.3よりも高いポテンシャルを持っていることは明らかだ。ただドヴィヅィオーソによると、コーナーエントリー直前のブレーキングとコーナー中間でのパフォーマンスを改善する必要があるとのこと。ただ、バイクが曲がるようになったのは非常に大きな進化だ。ジジ・ダリーニャもGP15のパフォーマンスに関して喜んでいる。ただ、ライダーがコメントしている事柄の80%は事前に想定していた問題だが、残りの20%は想定していなかった問題だけに、解析が必要だとしている。

イアンノーネはGP15を大変気に入り、タイムも好調だ。ドヴィヅィオーソはバイクの重量バランスを取るのに少し苦労している。彼によると何かしら新しい試みをする予定だったが、今回は時間が無くて断念したとのこと。ただカタールでこの新しい試みをする予定で、これによってバイクを進化させることを狙っている。

 クラッチローとバルベラはタイムを大幅に短縮

ヴァレンティーノ・ロッシとダニ・ペドロサが午前中にベストラップを出そうと努力している中、クラッチローは3番手タイムを記録。これは彼にとってセパンでのベストタイムでもあり、2位のロレンゾから0.5秒遅れのタイム。また彼の場合、この日は月曜日のマルケスと同様にブレーキに問題を抱えていた。これはブレーキの効力が安定しないということのようで、あるコーナーではちゃんと効くブレーキが、あるコーナーではハンドルバーにつくくらい引かないと効かないというような問題らしい。

 

レースシミュレーションにも同じような問題が出たようで、クラッチローはなんとか2:00台のタイムを出すに留まった。ブレーキの効きが変わってしまうということは、彼のラップタイムも安定しなかったということでもある。問題が起きなければ良いタイムが出るが、問題が出るとそういうわけにもいかない。1周で考えると、この問題が起きると0.4秒ほどロストしているようで、その間はブレーキが回復するのを待っていたようだ。原因は明らかになっていないが、彼によるとブレーキブルードの温度によるものでは無いだろうということだ。

 

タイムシート上で驚くべき結果を出したのはクラッチローだけではない。エクトル・バルベラもDucaitのオープン機に乗って8位に付けた。クラッチローと同様にバルベラも第一回セパンテストから大きな進歩を遂げている。彼の場合、よりパワーがあってブレーキも効くバイクに慣れたという状況かもしれない。前回のテストから比べて彼は0.939秒もタイムを縮めている。ちなみにクラッチローは0.878秒のタイム短縮だ。バルベラもレースシミュレーションを行ったわけだが、彼のキャメルバッグ(※管理人注 ライダースーツの背中のコブの中に入っているいわゆる水筒。チューブでライダーはストローのように水を吸える。水が流れこんで来たということは、逆止弁が壊れたんでしょうか?)が水漏れを起こし、流れ込んだ水によってヘルメットのバイザーが曇ってしまった。その後2回目のレースシミュレーションを行おうとした時にはトラックは非常に過酷な状況になっていた。

相変わらず遅いホンダのオープンバイク

バルベラのこの速さは、Ducatiのオープンバイクのポテンシャルを表している。これは2014年にアレイシ・エスパロガロが周囲を驚かせたような状況と似ている。だが、このDucatiの戦闘力の高さは他のオープンクラスのライダー、ニッキー・ヘイデンらにとっては面白くない状況だ。特に昨年はドルナからの要請によってオープンクラスのエントリーライダーやチームでも購入できる価格ということでホンダが作ったRCV1000Rはあまりにも遅く、セパンのテストにおいてはトップとの差は絶望的なものだった。

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ヘイデンは2014年はこのバイクに苦しめれた。その絶望的なパワー不足によって、ヘイデンは15位でテストを終え、最速ライダーだったヴァレンティーノ・ロッシから1.925秒もの差を付けられていた。2015年にヘイデンが操縦するRC213V-RSは、基本的にパワーはあるバイクだ。昨年から比べると彼自身のラップタイムは1.1秒ほど速いのだが、それでも彼はタイムシート上では17位止まりという状況だ。ヘイデンのタイムは確かに上がっているが、それでもトップとの差は1.698秒もある。

 

馬力だけが全てではなく、ヘイデンによるとエレクトロニクスの部分に大きな改善が必要らしい。ホンダの繊細なエレクトロニクスをオープンクラスバイク用のソフトウェアで制御するのは難しいようだ。特にHRCのソフトウェアがエンジンブレーキにおいて担っている役割は非常に大きい。ファクトリーホンダとオープンクラスのホンダの違いはその他の部分でも大きく、ファクトリーチームはファクトリーのエンジニアをガレージ内に囲い、マシン開発の中心となる人物にダイレクトにアクセス出来、さらに毎周、すべてのライダーのデータを取り出す事が出来る。

 

残念ながらオープンクラスのバイクにその余裕は無い。HRCのエンジニはオープンチームに対してアドバイスをすることがあるが、その優先順位は極めて低い。つまりオープンチームは僅か4人か5人、クルーチーフ、データエンジニア、メカニックが数名という状況で作業をこなさなければならない。昨年からのデータは大量にあるにはあるが、おそらく同じバイクで集計されたものではないだろう。だが、それでも彼らはその中から作業を進めセッティングを見つけなければならない。これがMotoGPのパドックにおける、持てるものと持たざるものの残酷な真実だ。

2015 MotoGP Sepang 2 Day 3 Round Up: Marquez vs Lorenzo, Honda vs Yamaha, And Why The Open Honda Is Still Slow | MotoMatters.com | Kropotkin Thinks