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★MotoGP2016 ヘレステスト 好調のDucati、ホンダはどこで間違ったのか?

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毎度素晴らしい分析をされているエメットさんのヘレステストの詳細記事をご紹介します。ミシュランタイヤはどのチームもイコールコンディションとしても、統一ソフトウェアについてはホンダがかなり苦戦、Ducatiが調子が良いというのが全体的な印象ですが、その背景には2014年、2015年から型落ちのファクトリーバイクにオープンクラス用ソフトウェアという形でサテライトチームを支援してきたDucatiの努力が実りつつあるということがあるようです。

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ヘレスのテストは終わり、ウィンターテストの禁止期間がスタートする。2016年にレースに参加するライダーは12月1日から2016年の1月31日までテストが行えない。エンジニアにとってはヴァレンシアとヘレスで集めたデータに意味をもたせるため、そしてヘレスで近々テストライダーでテストを行うアプリリアのように長い冬が待っている。

Ducatiは休暇の期間が最も長いチームだ。最初の2回のテストからも、彼らが統一ソフトウェアの作業をすぐに始め、良い結果を出している事は明らかだ。あるDucatiのエンジニアはすでにソフトウェアのポテンシャルの50%を発揮していると語り、これはMotoGPのテクニカルディレクターのコラード・チェッキネロがヴァレンシアで語った「ソフトウェアの実力は10%程度しか発揮されていない」という発言を上回る数字だ。

 

スコット・レディングがヘレスでのテストの最終日にプラマックのDucati GP15で最速ラップを記録しており、マルケスよりも0.1秒ほど速いタイム、そして唯一38秒台を記録したライダーであったことからも、Ducatiは状況をコントロールしていると言えよう。レディングはテストを通じて素晴らしい走行をしており、金曜の後に最もハッピーなライダーであった。「良いことはバイクの上で快適だという事です。これから何が起きるのか把握する事が出来ます。今日は最終コーナーでフロントをプッシュし過ぎて転倒するところだったんですが、転倒とはなりませんでした。バイクが話しかけてくれるんですよ。こういう良いフィーリングを持っていると、それが自信に繋がりますし何が起きるのかわかるんです。」

 

昨年のRC213Vは何も彼に話しかけることは無かった。彼が速く走ろうとしても遅くなってしまっていた。今やレディングはGP15で速いタイムで走行しており、プッシュすれば速く走れるのだという事を理解している。レディングは非常に喜んでおり、プラマックも同様。そして何よりもDucatiのマネジメント層もレディングの結果に喜んでいる。DucatiのMotoGPのボス、ダヴィデ・タルドッヅィはジャーナリストに対してレディングへの賛辞を述べた。レディングのチームメイトのダニロ・ペトルーチも速いタイムで走行しており、レディングから比べて0.25秒ほど遅れのタイムであるが、マルケスからは100分の数秒遅いだけだ。アンドレア・イアンノーネとドヴィヅィオーソたった1日のテストにも関わらず、2日目のマルケスとほぼ同タイムを記録した。

 

Ducatiのした事の何が正しかったのだろう?どうやら彼らは2015年にオープン機で参戦していたAvintiaのDucatiからの経験を享受しているようだ。2016年から大きな変化が始まるが、Ducatiのエンジニア達は統一ソフトウェアをどのように使用すべきなのかについてしっかりと理解をしている。新しいソフトウェア、そしてそれをコントロールするために使用されているインターフェイスは昨年のソフトウェアに基づいており、そこで培った経験は役に立つ。そしてこれこそがホンダが苦戦している理由だ。

 

ダニ・ペドロサは、「問題はこのプログラムの事を知らないという事なんです。技術者も自分もこのプログラムを知らず、自分達が求めるレベルに到達するため、そして何が必要なのかを知るために多くのテストが必要なんです。」と語る。これはアプリリアに関しても同様で、彼らは今年から自分達の作り上げたものに集中し、IODAチームが走らせているARTバイクを無視している。アプリリアは11月の2回目のテストであるにも関わらず、ヘレスではほとんど統一ソフトウェアに触っていない。昨年のソフトウェアでの経験がプラスになるのはヤマハも同様だ。ヤマハのシャツはヤマハのM1でレースをしているフォワードレーシングのガレージで頻繁に見かけられた。ここで得られた知見はファクトリーチームとテック3に引き継がれる。これらはヤマハにとって2016年ソフトウェアの理解のスピードアップに繋がる。2016年シーズンのためのプライベートテストは5日に制限されているため、ヤマハは今回のヘレスでのテストには参加しなかった。

 

エレクトロニクスが荒削りの状態の今、エンジンのコントロールは難しくなっている。こういった点でデスモセディチの馬力はあるもののユーザーフレンドリーな性格が大きな利点となってきている。これはつまりDucatiにとってエレクトロニクスの問題点が少ない事を意味する。アンドレア・ドヴィヅィオーソは「特に大きな問題はありませんでした。以前使用していたものとは異なりますけどね。コーナーの真ん中などで最大リーンの最中は特にスムーズにライディングする必要があります。その辺りのコントロール性は以前使っていたものよりも低いです。」と語る。これはつまり一度テストを開始すれば、ヤマハにも同様のメリットが訪れるということだ。

 

ホンダにとって状況は助けとはならない。攻撃的な性格のRC213V、そしてHRCは統一ソフトウェアについての経験が無い。このためマルク・マルケスは金曜日の早い時間にバイクから投げ出されている。マルケスは「あのハイサイドはとても不思議でした。本当に妙でコーナーの中でスロットルを開け続けていったのではなくて、スロットル一定でいきなりリヤが滑ったんです。MotoGPで走行してきてこんなことは一度も起こりませんでした。でもこれからはコーナーの中でもう少し注意して走行しようと思います。コーナーエントリでスロットルを開けていって、スロットル一定でいたところいきなりリヤが滑って、次の瞬間に空に投げ出されたんです。新しいエレクトロニクスを良く理解する必要があります。」と語る。マルケスが転倒したのは高速のターン3もしくはドゥーハンコーナーだろう。

 

転倒はホンダの新型エンジンでのテストの際だった。このエンジンは進化しているものの、未だに攻撃的でパワフルなエンジンだ。テストの後にダニ・ペドロサとマルク・マルケスは新しいエンジンはさらにポテンシャルが高いと感じたが、まだ彼らが必要とするレベルでは無いと感じている。両名ともホンダが2月初めのセパンテストまでに新しいエンジンを作る時間的猶予があるのかについては不確かだと感じている。ただ、まだいくつか道は残されており、それについてマルケスは「エレクトロニクスのせいでいくつかの問題が難しいので、ホンダはメカニカルな部分で問題を避ける、スムーズな挙動を実現する、加速でリードを築けるように努力する必要があります。」と語る。

 

加速性というのはホンダが2015年に苦しんでいた部分だが、彼らはブレーキングで取り返していた。しかしこれはミシュランのフロントタイヤでは厳しい課題となる。「昨年は加速性で苦しんでいてブレーキングで取り戻す走りでした。今年は加速性能でも苦しみ、限界が低く、限界を見つけづらいミシュランタイヤなのでブレーキングでリードを築くことも難しいでしょう。フロントはブリヂストンほど強力ではありませんね。最後のロングランで10周走ったんです。プッシュして走って毎周同じブレーキングポイントでブレーキングをしていると、フロントをオーバーヒートさせてしまうんです。そうなるとフロントから簡単に転倒してしまいます。そのため、どうやったらコーナー出口で稼げるのか?どのように加速するのかに付いて解決策を見つけないと行けません。」

この最後のロングランでマルケスは二度目の転倒を喫している。これは彼自身のミスである。「昨年型とエンジンの比較をしていたんです。それでホンダから正しく比べる為に限界で走行してくれというオーダーがありました。ブレーキングでの限界点で走行するとミシュランタイヤは危険ですね。」

 

ミシュランタイヤの問題は限界点がどこなのかわかりにくい点にある。アンドレア・ドヴィヅィオーソが言うにはAvintiaとPramacのチームのテストの中での助けがあり、ファクトリーチームにデータを提供してくれていたこと。これがフロントのフィーリング向上の助けとなっているそうだが、まだまだ改善の余地はあるとのこと。「ライディングしている最中は良いフィーリングですが、起きていること全てを理解出来ているわけでもありません。リヤのグリップは高いので非常に速いペースで走ることが出来ます。でもフロントは扱いにくいですね。ブレーキングの最中、ブレーキを引きずっている状態、ただその後スロットルを開ける時が危険です。最大のリーンアングルでフロントから荷重が抜けると簡単にフロントが滑ります。これが難しいポイントです。このフィーリングを向上出来るかどうかを理解する必要があります。」と彼は語る。

ミシュランタイヤがこのような挙動であるのは驚くことではない。異なるコンパウンドを使用していたヴァレンシアとくらべてフィーリングは異なるかどうかを聞いたところ、ドヴィヅィオーソはヴァレンティーノ・ロッシが述べていた「ミシュランのDNAは変わっていない」という言葉を繰り返し「コンパウンド、ゴムは関係ないですよ。これがこのタイヤの性格なんですから。」と語った。

 

ミシュランタイヤでは多くの転倒が起きている。しかしこれは時間が経つに連れて減っていくだろう。ライダーのライディングはブリヂストンタイヤを使用していたころと同じ乗り方で、これは変化が必要だ。ブリヂストンは大きく安定している。この安定感がライダーにコーナーの中でも強力にブレーキを使用させることを可能としていた。ミシュランは繊細な性格であり、ストレートラインでしっかりと減速しブレーキングの量を減らしてピッチングを活かしてコーナーに進入することを要求する。そしてリヤの絶大なグリップを使用出来るポジションになるまでは、コーナーの中でバイクを暴れさせないことが重要だ。もしブレーキをかけすぎていたり、リーンアングルが深すぎたりすると、リヤのグリップがフロントに勝り転倒に繋がる。しかし忍耐強くライディングすれば、リヤのグリップに頼ってコーナーから凄まじい勢いで脱出することが出来る。

 

ヘレステストで明らかになったことはヴァレンシアで見られたこととは別のことだ。RC213Vは1周のタイムでは速いがホンダはトラブルに見舞われている。ミシュランタイヤはバイクに素晴らしい加速力を与え、コーナーからの速い脱出を可能とする。しかしブレーキングとなるとフロントタイヤの扱いがキモとなる。これはHRCの現状の(※バイクの)デザインフィロソフィーとは完全に逆だ。ホンダのライダー達はコーナーエントリーでの強力なブレーキングを手に入れることが出来た。そしてそれを加速力の不足のために補ってきた。リヤのグリップ向上はホンダにとっても助けになるが、すでに素晴らしいコーナー脱出加速を備えているDucatiやヤマハのバイクにとって助けになる以上のものではない。

 

ヘレステストはまたホンダの2つのハンディキャップを明らかにした。まず1つ目はエンジンが未だに攻撃的すぎるということ。これはコーナーでの挙動を不安定にし、神経質なフロントタイヤの限界で走行することが難しくなる。2つ目には統一ソフトウェアに対しての知識と経験の不足により、エンジニアがエレクトロニクスでエンジンを穏やかなセッティングにすることが難しいという点だ。HRCは恐ろしく頭の良い人の集まりであるが、バイクの最高のパフォーマンスを引き出すには何が必要なのかを理解するのには時間が必要だ。これは同時にペドロサとマルケスのテストの時間をコストをしていることでもある。データエンジニアがバイクに加えたいと思っている変更を反映するには、エレクトロニクスのどこをどのように調整したら良いのかを理解している間、そしてソフトウェアのセッティング変更が終わるまで彼らはピットで待機していなければならない。

 

HRCが2015年にオープンクラスのバイクを支援するために時間と労力を注がなかったことを後悔し始めているかもしれないと勘ぐるところだ。彼らは2016年シーズンを新しいソフトウェアでどのようにしたら問題を解決出来るかというアイディアと共にスタート出来たかもしれない。今のこのタイミングで彼らから受ける印象は、ファクトリーチームがもがきながら進んでいるという印象だ。

by David Emmett

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