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★マルケスの不振の原因は何か?

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今年のマルケス選手の不振について、motomattersのエメット氏が鋭い考察記事を書いていたのでご紹介。確かに我々ファンもマルケス選手ばかりに注目して見ていると、まるでマルケス選手だけがスランプに陥っているかのように見えますが、RC213Vというバイクに注目して分析していくと、昨年末のテスト段階からマルケス選手が口にしていた「アグレッシブ過ぎる」というRC213Vの性格が浮き彫りになります。ただ、エンジン開発は凍結されていますので、シャーシや電子制御部分で乗りやすさを追求していくしかないと思いますが、これからのシーズンで巻き返しが出来るのでしょうか。。
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昨年マルケスは開幕から10戦連続で優勝し、2年連続のタイトル獲得に向かっていった。マルケスは最終的にシーズン13勝をしたが、ミサノでは無理せず転倒しないようにヴァレンティーノ・ロッシの後をついて走るなど、本来はもう少し早くチャンピオンシップを獲得出来るほどの余裕があり、昨年におけるマルケスとホンダRC213Vの組み合わせは最高であり、負かすことが出来ない存在だった。

 

8ヶ月後の今、マルケスはチャンピオンシップをリードするヴァレンティーノ・ロッシを49ポイント差で追っている状態で、今シーズンの勝利は僅かに1つ、その他に獲得した表彰台も1つという状況だ。現在までに2回の転倒リタイアがあり、昨年の同時期に比べて101ポイント獲得ポイントで下回っている。また、同じRC213Vを操縦するクラッチロー、レディング、ペドロサもマルケスと似たフロントエンドからの転倒が目立ち、RC213Vはマルケス不振の原因という批判の矢面に立っている状態だ。誰もが口々に言うのが、どうしてRC213Vはグリッドの中で最高のバイクから、ヤマハやDucatiに抜かれるバイクになってしまったのか?わずか数ヶ月の間に何が変わってしまったのか?ということだ。
 
こうした質問への回答は「けしてそうではない。」というものになるだろう。確かにホンダはRC213Vの有り余る馬力とアグレッシブなエンジンブレーキに苦しんでいる。しかしこのバイクはどう間違ってもダメなバイクではない。このバイクは今の状態でも昨年より速く、レース全体のペースは平均して1秒近く昨年より速いのだ。実際のホンダの問題は一夜にして起こったものではなく、RC213Vが徐々に失っていったライバルに対してのアドバンテージを、マルケスの素晴らしい走りが見えづらくしていたのだ。
 
こうしたRC213Vのパフォーマンスの低下に関しては、2013年シーズンから2014年シーズンにかけてのサテライトライダーを見るとわかりやすい。この時期、アルヴァロ・バウティスタとステファン・ブラドルはチーム移動がなく、同じバイクを操縦していた。バウティスタにとっては4度目、5度目のMotoGPシーズンで、ブラドルは2度目、3度目のシーズンだった。両者ともにこの2年間での変化はマシンが2013年型から2014年型に変化するだけだったので、獲得ポイントや優勝ライダーとのタイム差は良くなるはずであった。
 
2013年において、ブラドルは常に表彰台が狙える位置にいるライダーで、常にトップ5付近での完走をしていた。14戦を終えた時点で8戦で5位までで完走しており、5位5回、4位2回、表彰台1回という戦績だった。表彰台獲得のラグナ・セカでは彼自身唯一となる予選ポールポジションも獲得している。平均すると優勝ライダーとのタイム差は22.355秒と大きいものの、ブラドルのキャリアは順風満帆に思えた。しかし2014年、13戦を終えた時点で5位以内での完走は僅か5戦。最高位は4位だった。彼のレースごとの平均獲得ポイントは11.14から9.75にまで下がった。
 
平均してブラドルは2014年には昨年の自分のレースタイムよりも4秒近く遅く、優勝ライダーからは遥か後ろでフィニッシュしていた。2013年のル・マンを例に出すと、ブラドルは優勝ライダーの1分も後方で完走しているが、2014年にはその差がさらに6.9秒も広がっている。2013年には足の骨折で2戦を欠場し総合156ポイントでチャンピオンシップ7位だった成績も、2014年には全戦に出場して117ポイント、チャンピオンシップの成績も9位に終わっている。
 
同じ事がバウティスタにも言える。バウティスタは2012年にグレシーニホンダで総合獲得178ポイントでランキング5位の成績を残した。2013年には171ポイントを獲得してランキング6位。この年は3回の4位完走を果たしている。バウティスタは優勝ライダーから平均して18.710秒遅れで完走しており、ニッシンのブレーキとSHOWAのサスペンションを使用していた事を考えると素晴らしい成績だと言える。
 
2014年にバウティスタは苦しんでいた。ル・マンではポル・エスパロガロとペドロサを抑えて3位表彰台を獲得したものの、これがこのシーズンの彼の唯一の5位以内フィニッシュとなった。その他には6位が2回、7位が2回、8位と10位が2回という成績で、いつも8位争いをしているような状況であった。バウティスタの平均獲得ポイントは10.69から8.09にまで落ち、優勝ライダーとのギャップは18.710秒から31.895秒にまで伸びた。
 
疑う余地無く、ブラドルとバウティスタは他のホンダライダー(※マルケス)に負けていた。2013年にRC213Vは8勝、2014年には14勝している。しかし、このバイクはけして乗りやすいバイクでは無かった。ブラドルとバウティスタは2013年に2回づつ転倒している。2014年にブラドルは5回も転倒しており、完走出来たレースは13戦のみだ。バウティスタの場合はなんと7回も転倒しており、完走出来たレースは11戦となっている。
 
こうした要因を見ても、2015年のホンダの不調が突然訪れたものでない事は明らかであるし、RC213Vの不調は少なくとも18ヶ月前から始まっていたとわかる。マルケスの負けなしの2014年シーズンのスタートによって、我々はこのバイクが無敵であるかのような錯覚を覚えたが、実際は色々な要因が合わさった結果であったと言える。2014年のマルケスの成功は、RC213Vが素晴らしいからというわけではなく、彼自身の素晴らしい能力とライバル達が抱えていた問題が合わさった結果だった。
 
ヤマハは2014年シーズンから減らされた燃料とブリヂストンの新しくなったタイヤへ適応出来ないでいたし、ロレンゾはシーズン序盤から大きく出遅れていた。DucatiはGP15の開発中で、GP14はパフォーマンスが高いと言えるバイクでは無かった。これらの要因が合わさって、ホンダのRC213Vを実際のパフォーマンスよりも優れたバイクに見せていたのだ。メディアやファンは表彰台でシャンパンを浴びるマルケスばかりに焦点をあて、ガレージでうなだれるブラドルやバウティスタを気にも止めなかった。
 
2015年は、単純にこのバイクの持つ問題が隠しきれないほどに大きくなったに過ぎない。ヤマハやDucatiが冬の間に遂げた進化が大きかったのだ。ヤマハのブレーキングは今やそのコーナリングパフォーマンスと同等になり、ロレンゾは調子を取り戻し、ロッシは新しいライディングを身につけた。ジジ・ダリーニャはDucatiのレース部門を再建し、エンジニア達は恐ろしく速いGP15を作り出した。今年、ホンダがレース全体で1秒程度しか速くなっていないのに対し、ヤマハは10秒以上、Ducatiに至っては20秒近く速くなっているのだ。
 
これらを総合してRC213Vが悪いバイクだということではない。それどころかオースティンでのマルケスの優勝を含めて今年に関しては3度表彰台を獲得しているバイクだ。しかし、このバイクは明らかに年々乗りにくくなってきているようで、2015年型に関しはライディング出来る限界に到達しつつあると言える。確かにマルケスは今シーズンポールポジションを3度獲得していて、RC213Vは限界域でのパフォーマンスが非常に高いバイクであると言えるが、このバイクを約27周の決勝レースにおいてフィニッシュラインまで持っていくことは至難の業だと言える。HRCはこの問題をなんとかして修正してくるだろうが、彼らはこの仕事をとにかく迅速にこなさねばならない。