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★MotoGP2016 速いファクトリーチームと苦戦するサテライトチーム

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Motomattersのデビッド・エメット氏による、チャンピオンシップにおけるサテライトチームの抱える問題点に焦点を当てた記事をご紹介します。「ドルナはメーカーへの支援金額をさらに増やし、メーカーはサテライトチームに、バイクと共にエレクトロニクス、ソフトウェア、シャーシのスペシャリストをライダーにつき1名供給する」なんてルールにすれば良いのかもしれませんが、そうなると運営費がとんでも無い事になりそうですね。

★MotoGP2016 速いファクトリーチームと苦戦するサテライトチーム

「私はあまり幸福な男ではないんです。」とテック3のボス エルヴェ・ポンシャラルはバルセロナGPの前の木曜日に語った。彼の問題とは?それは魅力的な若いライダーをブラッドリー・スミスやポル・エスパロガロが抜けた穴に惹きつけるという事だ。

彼らの目的地はポンシャラルの問題を象徴している。バルセロナでエスパロガロはテック3を離脱し、2017年と2018年にKTMで走る事を発表した。つまりポンシャラルは2017年に2人のルーキーをチームで走らせることになる。彼はル・マンでジョナス・フォルガーと契約を交わし、またヨハン・ザルコがもう1人のライダーになる可能性が最も高いライダーだ。(ザルコは現在日本でスズキのGSX-RRをテストしている。ただ彼はスズキがイアンノーネのチームメイトとしてアレックス・リンスと契約を結んだ場合は、テック3との契約を発表すると見られている。)


テック3のそもそもの希望は、しっかりした結果を残すためポル・エスパロガロをフォルガーのチームメイトとして残すこと、もしくはヤマハとファクトリー契約を結んだアレックス・リンスをチームに迎えることだった。いずれにせよ、スポンサーを喜ばせるには欠かせない宣伝性を確保することが出来るものだった。しかし、2人ともにルーキーのライダーでファクトリーとの契約も無いとなると、テック3の運営にかかる800万から900万ユーロの運営費を払うスポンサーにとっては魅力が薄い。

ファクトリーライダになるという流行

なぜテック3はポル・エスパロガロをキープ出来ず、アレックス・リンスと契約を結べないのだろうか?「今のトレンド、もしくはファッションのような形ですが、ファクトリーと非常に近いマシンはあります。しかし若くて速いライダーであれば、ファクトリー契約以外は眼中に無いんです。これは自分達にとっては極めて理解、そして受け入れる事が難しいものです。」とポンシャラルは語る。


「リンスは我々にとっては非常にエキサイティングな可能性です。彼は我々と同じくモンスターをタイトルスポンサーとして持っていますから、丁度良いんです。」だが問題は、テック3は今やファクトリーシートを獲得する最高のルートだとは、もはや思われていないという事だ。「リンスがファクトリーヤマハのシートを獲得したのが誰かと考えると、スズキで走っていたライダーなわけです。」ポンシャラルはマーヴェリック・ビニャーレスがECSTARスズキからモヴィスターヤマハに移籍した事を例に語る。「つまりファクトリーヤマハのシートを獲得するには、テック3でまず走ったほうが良いのでしょうか?現状はそうは見えていません。」


リンスがファクトリー契約を希望しているという事よりも不安視されるのは、リンスの父親の「MotoGPのサテライトチームに移籍するよりは、Moto2でもう1年走ったほうが良い」という発言だ。「驚きました。これはMoto2で3年過ごすほうが、LCRやテック3に移籍するよりも良いってことですからね。」


才能ある若きスターライダー達がサテライトチームを避けるのには理由がある。そしてそれに対してチームが出来る事は少ない。現代と過去の最大の違いは戦闘力の高いマシンの差だ。タイヤが1社によって供給されるようになってから、ファクトリーホンダ、ファクトリーヤマハ、そしてDucatiのストーナーだけが勝てない相手であった。「2メーカーしか主力メーカーがいない状況では、残された5位を争っていたんです。年間に8回は表彰台を獲得していたと思いますよ。」

数チームにとっての公平な土俵

共通エレクトロニクスの導入によってDucatiのパフォーマンスが上がり、また多くのメーカーをMotoGPに呼び戻す事になった。共通ソフトウェアは新しいメーカーにとって実力の均等化のため、高額なパフォーマンスの迷路と言えるものを取り去り、メーカーのエレクトロニクスの達人達はホンダやヤマハに追い付くためにアルゴリズムを追い続けるよりも、バイクからのデータの理解に時間を使うようになった。


スズキの場合は、競争力が低い状態から表彰台を狙えるまでに18ヶ月かかった。アプリリアは現在しっかりとしたMotoGPのプロトタイプマシンを持っており、これを飛躍的に開発を進めている。彼らのバイクに最も足りない部分は30数馬力不足している馬力だ。Ducatiは昨年のオープンクラスソフトウェアの経験を活かして、2010年以来初めてとなる優勝を目指し、度々表彰台獲得の候補となっている。また、KTMの開発サイクルは、複雑な自前のソフトウェアを開発することなく、パワーデリバリーとシャーシの動きに集中することが出来ている。


こうした流れがサテライトチームを脇に追いやっている。「数年前までは自分達はBチームだったんです。ただ現在はCチームですね。今は4つのメーカーが自分達の前にいます。つまり自分達は9位争いをすることになります。ただ6つのメーカーは彼らの出来る限りを尽くして自分達よりも速くなります。となると自分達が争うポジションは13位ポジションです。となるとパルクフェルメで予選もしくは決勝13位の状態で祝福されても妙ですよね。」(※管理人注 パルクフェルメでは上位3台と独立チームのトップ1台が祝福を受ける)2011年はテック3は幸運を掴み表彰台を獲得することも出来ていた。しかし2017年には、幸運を望んで得られるのはトップ10だ。

ライダーの問題

なぜサテライトチームはトップ10入りに苦戦してるのか?それはバイクのセッティング作業に使用出来るリソースの差だろう。「エレクトロニクスがより基礎的なものなので、エレクトロニクスに関して作業が増えるんです。自分達はファクトリーのような人間はいませんから、ファクトリーのバイクは今まで以上に速くなるんです。そしてサテライトチームは今までよりも一掃クソみたいになるんです。」とポル・エスパロガロはヘレスで語ってくれた。


サテライトチームが1人のライダーに対して1人のデータエンジニアしかいない中、そして時には1人のデータエンジニアを2人のライダーで共有する中、ファクトリーチームは1人のライダーに対して2人のエレクトロニクススペシャリストが付く。そして更に重要な事に、パドックにはエンジニアが溢れているが、スペシャリストはファクトリーの中にいるのだ。サテライトライダーは毎週生み出される数ギガバイトものデータの解読に1人のエンジニアという状況だが、ファクトリーライダーはその問題に小さな軍隊規模の人間で挑むのだ。


ポンシャラルにとって一番重要なのはサポートの問題でも装備の問題でもなく、ライダー自体が問題なのだ。「技術的なレベルには良く集中する事があります。彼は最新のサスペンションを使ってるだとか、最新のエレクトロニクスを使ってるだとかというのはあるんですが、最終的にはバイクに乗っているライダーの問題なんです。ですからDucatiが大金をホルヘに払った訳で、トップ4人とか5人のライダー達がそれに見合う金額を支払われているんですよ。彼らがいなければ勝利はほぼ不可能でしょう。」

広がる実力差

ポンシャラルの言うことは的を得ている。ライダーは未だに何よりも重要な要素だ。そして2008年以降、才能の差は我々が今までに目にしてきた中で最も広がっている。ヴァレンティーノ・ロッシ、ホルヘ・ロレンゾ、ダニ・ペドロサ、ケイシー・ストーナー、マルク・マルケスが、最高峰クラスの勝者リストの上位9名の中のトップ5で、全てのクラスのグランプリレースにおける勝者リスト上位11名のうちの5名だ。まぁストーナーは既にリタイアしているが。マーヴェリック・ビニャーレスはこの5人のライダーを負かすには野心的な才能が必要な事を良く示している。皆がほぼ似たようなバイクに乗っているにも関わらず、表彰台を獲得するというのは事実上不可能だ。他のどの時代であってもダニ・ペドロサは数度チャンピオンシップで優勝していたであろうし、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、アンドレア・イアンノーネ、カル・クラッチローも何度も優勝出来るライダーであろう。


この問題をいかに解決し、どうすればサテライトチームに戦力を取り戻せるのだろうか?エルヴェ・ポンシャラルは悲観的だ。「明らかにライダーがキーポイントです。なぜなら自分達は彼らを惹きつける事が出来ないんです。今のところ将来はあまり明るくないですね。何をすればよいか?わかりませんね。」ポンシャラルが提示する1つの解決策は、彼が今まで打ち出していた案で世界経済危機の際に持ち込まれたアイディアだ。「数年前には自分のアイディアだったんです。良いアイディアだと思ったんですよ。それはルーキールールです。これは若いライダーはファクトリーチームに入る前に1年は独立チームで走らなければいけないというもので、非常に良いアイディアだと思うんです。これが彼らのキャリアに大きなハンデなるとは思いません。」

(※管理人注 通称:アンチルーキールール 08年から実施されたもので、最高峰クラスに参戦するライダーは、参戦初年度からファクトリーチームに加入することは出来ないというもの。2013年の1月1日からこのルールが廃止/ルーキーの最高峰クラス参戦が解禁となった。なおヤマハは規制前にロレンゾ選手を獲得しており、ホンダは解禁後にマルケス選手を獲得。スズキも2015年にビニャーレス選手を獲得しています。)

予期しない結果とルーキールール

このルールによってベン・スピーズは2010年にテック3に加入。これは彼がWSBKで初めての参戦に関わらず2009年にチャンピオンを獲得した後のことだ。しかしスピーズをファクトリーチームから遠ざけていたのはルーキールールではない。結局スピーズが2010年に誰と変わってヤマハに入れただろうか?(※2009年の終わり時点で)世界チャンピオンとして君臨するヴァレンティーノ・ロッシ?それともその年は4勝、その他8回の表彰台を獲得して2位となったロレンゾだろうか?


マルケスがこのクラスにステップアップしてきた時にこのルールは廃止された。「明らかにマルク・マルケスはファクトリーチームに行くように言われました。その時はLCRしか独立チームがありませんでしたからね。でもLCRはカストロールからスポンサードを受けています。そしてレプソルはマルケスをMotoGPクラスで走らせるように推しました。そしてそこでルールが壊れてしまったんです。」


LCRはカストロールとの関係が長い。またレプソルはマルケスがキャリアをスタートした時からマルケスのスポンサーを努めている。そしてこの2つのスポンサーは相容れることは無い。(※両方石油会社なので)しかしマルケスがMotoGPで挑戦出来る準備が出来ていることは明らかだった。そしてさらに難しかったのは、マルケスがクルー全てを引き連れてくると主張した事だ。つまりそれはチェッキネロにとってはLCRのメカニック全てをクビにすることであり、彼が出来たのはマルケスがファクトリーホンダへと旅だった1年後に、再び彼らを雇うということだけだった。マルケスのシチュエーションは極めてユニークだ。そしてこうした厳しいケースの元では悪法が作られる。


しかしチャンピオンシップの中でサテライトチームが生き残って行くことを考えると、ある程度の調整は必要だ。サテライトチームがどのような役割を担えるのかを証明するためには、ファクトリーアプリリアチームを見るのが良いだろう。アプリリアはファクトリーチームとしてMotoGPに復帰したいと考えていたが、一からファクトリーチームをつくり上げるだけのリソースが無かった。そのため彼らはグレシーニと協力をし、グレシーニがチームを運営し、アプリリアはバイクと技術的開発を提供した。グレシーニのメカニックとクルーチーフはチームに残ったが、アプリリアのエンジニアはバイク開発の責任を負っている。

成功の被害者

現実的にはサテライトチームはチャンピオンシップ全体の成功の被害者だ。ルーキールールは世界的な経済危機の2008年から始まり、MotoGPを健康に保った。今や5つのファクトリーがチャンピオンシップで戦っており、2017年にはそれが6つになるのだ。


そしてこうしたファクトリーチームが、有能なライダー達を甘やかす選択肢となっている。かつては新しいライダーがファクトリーチームへと登っていくには、まずテック3やLCRといったチームに加わる必要があった。しかし今や彼らはモンスターテック3ヤマハのガレージにあるヤマハのM1よりも劣る可能性はあるとは言え、スズキ、KTMに加入するというチャンスを掴む事が出来る。素晴らしいサポートが得られ、自分が望む方向にバイクを開発出来るチャンスがあるとなると、新しいライダー達はこぞってサテライトチームをスキップしファクトリーチームを目指すようになる。ポンシャラルが言うように、スズキ、KTM、アプリリアが現在のBチームで、テック3、LCR、Pramac、Marc VDSなどがCチームなのだ。

なぜそうならなかったのか?

ポル・エスパロガロは(※テック3にとって)開発の広告塔であり、彼はMoto2のチャンピオンとしてヤマハと2年契約をした状態でテック3にヤマハに加入した。エスパロガロはロッシがリタイアした後はファクトリーヤマハチームに加入するライダーとして育てられてきており、その後は元々のライバルであるマルク・マルケスと戦うことになるのだと考えられていた。


しかしそういう形にはならず、ヴァレンティーノ・ロッシがリタイアしなかった事でモヴィスターには新たな選手が入る余地が無くなってしまった。レプソルホンダにしても、ダニ・ペドロサがHRCに忠誠を誓う社員として残った。ホンダにしてもヤマハにしても、チャンピオンシップを彼らのために戦ってくれるライダーを手放す事はない。そのためエスパロガロはテック3で足踏みをすることになり、自分にはスタイルが合わないと考えているホルヘ・ロレンゾのために開発されたバイクを使う事になった。彼は開発の方向性を決める力もなく、ファクトリーライダー達と戦うための十分なサポートも受けられなかった。彼は2015年に精彩を欠き、これは彼のイメージに傷をつけることとなった。そして好調な2016年シーズンが彼を何とか救っている。


間違いなく、ポル・エスパロガロのヤマハと契約を交わすという判断は、彼が成し遂げられたであろうことから大きく異なり、彼のキャリアを傷つけるだけに終わった。KTMがMotoGPに参入するという事は彼を救うことになるかもしれないし、彼にとっては違いを生み出せるのだという証明のチャンスとなるかもしれない。

皆が勝者にはなれない

サテライトチームの問題が我々に何を残しただろうか?残念ながらこれは簡単に修復出来る問題ではない。ルーキールールは少しは助けになるかもしれないが、本当の問題はファクトリーチームとサテライトチームへのサポートのレベルの違いにある。


こうした考えに説得されファクトリーチームへのサポートを減らしたメーカーは失敗に終わっている。彼らもまたサテライトチームと同様に、成功を生み出すというプレッシャーの元にいるのだ。しかし彼らの利害は独立チームの5倍から10倍高い状態だ。2017年には23台のバイクがグリッドに並び、誰かが2位で、3位で、10位で、そして23位でゴールすることになる。


BY DAVID EMMETT

Fast Factories vs Suffering Satellites: Hervé Poncharal on the Plight of Independent Teams | MotoMatters.com | Kropotkin Thinks

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