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★羽を生やすか生やさないか?それが問題だ。

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Ducatiウイングレットについては登場時から話題になってはいましたが、その可能性と危険性についての詳細な考察記事をご紹介します。現在はDucatiと昨年いくつかの場面でヤマハが使用しただけでしたが、グリッドに並ぶ全車がウイングレットを採用したとすると、かなりの危険性があるのは容易に想像が出来ます。記事中では来年からは禁止になると予想していますが、果たしてどうでしょうか?(※記事中ではストレーキと紹介しています。)

★羽を生やすか生やさないか?それが問題だ。

モーターサイクルレーシングが存在するのには様々な理由があるが、主にはレースをしたいという人がいるからだ。ヴァレンティーノ・ロッシのエンジニアを長く務めたジェレミー・バージェスは「バイクがあって子供が2人、ストップウォッチを持っていてダートで走行できる場所があればすぐにでもレースが出来る。」と語っている。

基本的にはレースを見たい人達がいるからレースが成り立っているわけで、レースを見る人達がいる為にそこで金儲けをしようとする人達がいて、メーカーは自分達の技術力をひけらかすため、そしてより良い市販車を作成するための学びの為にレースをしている。DucatiMotoGPバイクのウインレットのおかげでより良い市販車を作成できているだろうか?長い目で見ればそうなるかもしれない。

★羽を生やすか生やさないか?それが問題だ。

ウイングレットストレーキ(※航空機の胴体や機首の側面に設けられたフィンのこと)とも言えるかもしれないこのエアロダイナミクス装置に関しては、長い歴史がある。マイク・ヘイルウッドは1980年のシニアTTで、スズキのRG500でストレーキを装着したバイクで優勝をしている。ストレーキを装着したRGは、もう一人のライダーであるバリー・シーンに更なるダウンフォースを与え、フロントタイヤの温度上昇を助けた。(メリットになる時もあればそうでない時もある。)

 
また、このストレーキ最高速を少し犠牲にする事と引き換えに高速域での安定感をもバイクに与えた。スズキのストレーキは幅が約4cm、長さは約30cmというものであったが、長く使用されたものではなかった。ヤマハは90年台によく似たサイズのストレーキを試し、MotoGP初期にも同様のものをテスト、正式に採用はされていないようだが、現在も似たようなものを使用している。
 
Ducatiはこのエリアに関しては本気で取り組んだ初めてのメーカーと言える。最新のデスモセディチは4つの巨大なストレーキを装備しており、その主な狙いはウイリーの抑制である。喉から手が出るほどに欲していた加速時のトルクと密接に関わる(※ウイリーを制御する)アンチウイリーのエレクトロニクス無しには、その開発には時間も労力もかかる。MotoGPがライダー補助の仕組みが少なくなる新時代になった今では賢い方法だと言える。しかし、これらはそれだけにとどまら無いと言える。F1の伝説的なデザイナーであるジョン・バーナードはチームロバーツとMotoGPで活動した人物だが、エアロダイナミクスがストレートスピードだけでなくコーナリングパフォーマンスを向上させる可能性について言及している。
 

ジョン・バーナード

「60度のリーンアングルの時はフェアリングが路面に非常に近くなります。そこでどのような働きをしているのか?どのような可能性があるのかは別問題です。」
 
そのためジジ・ダッリーリャがカーボンファイバー製のストレーキで向上させようとしているのは、加速だけでない可能性があるのだ。その可能性は大きいとして、現実的なものなのだろうか?
 
多くのレーサーが思い起こさせてくれるようにレースとはぶつかり合いであり、多くのスクラップになったボディワークがあり、接近戦のレースの後はレザースーツにタイヤ跡が残っているような事もある。であるからして、車体に余計な突起物を付けるのは良いアイディアなのだろうか?(※現在のルールではシートにウイングレットをつける事も出来る。)車体に余計なものが増えるたびにライダーがそれに接触する可能性も増える。
 
Ducatiのライバル達はそれが加速性を向上させる事を既に理解している。果たして全てのメーカーが同じような装備をするのにどれくらいの時間がかかるのだろうか?そして1コーナーの進入でいくつかのトップライダー達が接触し、そのストレーキが外れて後続のライダーの進路に落ちたとしたら?
 
また、ライダー達が高速コーナーにサイド・バイ・サイドで進入した際に、ストレーキが他のライダーの膝の邪魔をしたら?他のライダーを押し出したり、バイクから振り落としたりしたら?コーナーだけが問題となるわけではない。昨年のフィリップアイランドでは、あるMotoGPライダーが、Ducatiのバイクの作り出す乱流が懸念だったと語っている。これはDucatiのバイクのスリップストリームについた時に、時速340km/hで恐ろしくバイクのコントロールが難しいという問題だ。
 
Ducatiのメカニックがストレーキで頭を切ったことを受けてルールが改正された。そのため、今年のストレーキは必ず直径5mmの曲面のエッジを持たねばならない。また、Ducatiのライダーが転倒後にダメージを受けたストレーキの状態で走行する場合、ブラックフラッグ(※失格)を受けるとされた。この問題はすぐにMotoGPパドックに広まり、Moto2、Moto3チームの中でストレーキの装備を考え始めるチームもあるだろう。Moto3のトップ10人のライダーがストレーキを付けたバイクでバトルをする様を想像できるだろうか?ドルナ、FIM、IRTA、各ファクトリーが懸念するのも当然だ。
 
既に危険なスポーツに新たな危険を持ち込む事は意味がない。レースの歴史の一面にはいかに安全性を向上させてきたかという側面がある。ボールエンドが付いたクラッチ、ハンドルバーは1950年台に血まみれの事故の多発によって導入された。1980年台からはライダ転倒時に喉を切らないようにフェアリングスクリーンはラウンドのエッジを持たねばならなくなった。ボールエンドが付いたステップバーは恐ろしい事故の後に採用された。
 
1980年台にはオイルキャッチパンが4ストロークバイクの登場に合わせて採用され、多くのレーサーのアンダーカウルはエンジンブローの際のオイル溜めとなるよう、低く低く改良されてきた。私自身もこの被害者で、1985年にはスズキのGSX-R750がル・マン24時間耐久レースの右コーナーに、夜間にこぼしたオイルで転倒した。この事故の結果は悲劇と言うよりは喜劇であったが。。(※この路面のオイルで多くのライダーが転倒し、暗闇のグラベルトラップの中で皆が自分のバイクを探して彷徨ったものだ。)オイルキャッチのおかげで一体どれだけの数のライダーが骨折から免れ、救われた命があっただろうか?
        
1994年のフランスGPでファクトリーヤマハダリル・ビーティーがYZR500で転倒し、彼の右足はドライブチェーンとスプロケットの間には挟まれた。彼は足の指を5本全て失った。私は次の日にパリの病院に彼を見舞いに行ったことを覚えている。彼はモルヒネのおかげで上機嫌そのものだったが。。その後、同様の事故を防ぐために、全てのレースバイクはチェーンガードの装着が義務化された。その数年後、ジェレミー・マクウィリアムズと数名のライダーのフロントブレーキレバーに他のバイク、ライダーが接触したことを受けて、ブレーキレバーガードが装着されるようになった。これらの修正はバイクの主要パーツに施されてきたものだ。バイクにはブレーキレバーもステップも、チェーンもスプロケットも必要だ。しかしストレーキは必要では無い。
 
良いニュースとしては、ストレーキは恐らく今シーズンを最後に禁止されるという事だ。この事項は実は既に禁止されているのかもしれないが、ドルナとメーカー協会の共通ソフトウェア導入を巡る取引の中で、メーカー協会側にこうした事項のコントロール権がある。ドルナ、IRTA、FIM、いくつかのライバルメーカー達はストレーキを無くしたがっている。ただ、Ducatiがこのストレーキの開発にかけた投資、今年のグリッドの30%をDucatiが埋めていることからも、ストレーキは今シーズンは残り続けるだろう。恐らくメーカー協会は2017年からストレーキの禁止の投票を行うと予想される。
 
by Mat Oxley